221桑田佳祐 - 声に出して歌いたい日本文学
歌名:声に出して歌いたい日本文学
歌手:桑田佳祐
专辑:君にサヨナラを
制作:賴潤誠
「声に出して歌いたい日本文学」
作詞∶桑田佳祐
作曲∶桑田佳祐
歌∶桑田佳祐

▼『汚れつちまつた悲しみに……』 中原中也
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
たとへば狐の革袋(かはごろも)
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
倦怠(けだい)のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみは
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

▼『智恵子抄』 高村光太郎
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
智恵子は東京に空が無いといふ、
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多(あた)多羅山(たらやま)の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

▼『人間失格』 太宰治
恥(はじ)の多い生涯(しょうがい)を送ってきました。
自分には、人間の生活というものが、
見当つかないのです。
自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。
そこで考え出したのは、道化でした。
最後の求愛でした。
夕立ちが降った或(あ)る放課後、
「耳が痛い」と言う竹一を見ると、
ひどい耳だれで、
念入りに耳の掃除をしてやりました。人間、失格。
いまは自分には、幸福も不幸もありません。
自分はことし、二十七になります。
白髪がめっきりふえたので、
たいていの人から、四十以上に見られます。
子供相手の雑誌だけでなく、
駅売りの粗悪で卑狼(ひわい)な雑誌などに
汚いはだかの絵などを画いて、
画いていました。人間、失格。

▼『みだれ髪』 与謝野晶子
やは肌のあつき血潮(ちしほ)に
ふれも見でさびしからずや道を説く君
乳ぶさおさへ神秘(しんぴ)のとばりそ
とけりぬここなる花の紅(くれない)ぞ濃き

いとせめてもゆるがままに
もえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春
春みじかし何に不滅(ふめつ)の
命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ
人の子の恋をもとむる
唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひ

▼『蜘蛛の糸』 芥川龍之介
ある日の事でございます。
御釈迦様(おしゃかさま)は極楽の
蓮池(はすいけ)のふちを、独りでぶらぶら
御歩きになっていらっしゃいました。
この極楽の蓮池の下は、
丁度地獄の底に当っておりますから、
水晶のような水を透き徹(とお)して、
三途(さんず)の河や針の山の景色(けしき)が、
丁度覗(のぞ)き眼鏡(めがね)を見るように、
はっきりと見えるのでございます。

地獄の底に、カンダタと
云う男が一人、蠢(うごめ)いている。
この男は、人を殺したり、悪事を働いた大泥坊、
それでもたった一つ、善(よ)い事
蜘蛛を殺さず助けてやったからでございます。
御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、
カンダタには蜘蛛を助けた
事があるのを御思い出しになりました。
この男を地獄から救い出してやろうと
御考えになりました。

▼『蟹工船』 小林多喜二
二人はデッキの手すりに寄りかかって、
蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、
海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。
蟹の生ッ臭いにおいと
人いきれのする「糞壷(くそつぼ)」の中に線香のかおりが、
香水か何かのように、ただよった……
諸君、とうとう来た!
長い間、長い間俺達は待っていた。
半殺しにされながらも、待っていた。今に見ろ、と。
しかし、とうとう来た。
俺達は力を合わせることだ。
俺達は仲間を裏切らないことだ。
彼奴等(あいつら)如(ごと)きをモミつぶすは、
虫ケラより容易(たやす)いことだ。
「おい、地獄さ行(え)ぐんだで!」
「ストライキだ。」

▼『たけくらべ』 樋ロー葉
何時(いつ)までも何時までも
人形と紙雛(あね)さまとをあひ手にして
飯事(ままごと)ばかりして居たらば
嘸(さぞ)かし嬉しき事ならんを、
何時までも何時までも
人形と紙雛さまとをあひ手にして
飯事ばかりして居たらば
嘸かし嬉しき事ならんを、
ゑゝ厭や厭や、大人に成るは厭やな事、
何故このやうに年をば取る、
最(も)う七月(なんつき)十月(とつき)、
一年も以前(もと)へ帰りたい

▼『一握の砂』 石川啄木
東海の小島(こじま)の磯(いそ)の白砂(しらすな)に
われ泣きぬれて 蟹(かに)とたはむる
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと 握れば指のあひだより落つ
こころよく 我にはたらく仕事あれ
それを仕遂(しと)げて死なむと思ふ
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て 妻としたしむ
一握の砂

▼『吾輩は猫である』 夏目漱石
吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだ無い。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
ある穏やかな日に
大きな猫が前後不覚に寝ている。
彼は純粋の黒猫である。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。

▼『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治
銀河ステーンョン……
ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいで
なんにも云えずに博士(はかせ)の前をはなれて
早くお母さんに牛乳を持って行って
お父さんの帰ることを知らせようと思うと
もう一目散に河原を街の方へ走りました。

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